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Wallpaper* |
ジョナサンアイブがデザインした表紙を見てみましょう。真っ白の表紙にカラフルなタイトルと価格等が書いてあります。
批判
このデザインについて、以下のような批判が出ています。引用
「The Vergeは、「アイブ氏の雑誌の表紙デザインは、中に何が書かれているかを知らせる最も基本的な機能が欠けており、インタビューが掲載されていることすらわからない」とコメントしています。」
ここでは、雑誌の表紙には、中に何が書かれているかを知らせる機能がなければならないという前提で批判がされています。
しかし、雑誌も抽象化すれば本の一種です。本の表面にはタイトルと著者名さえ書かれていれば、本としての必要最小限を満たしています。それ以外は、ブックデザイナーの自由です。別にタイトルと著者名だけでもいいのです。雑誌の場合、関わったライターを挙げるとキリがない上に、個々のライターの個性は重視されないので、著者名は省略可能だと思われます。
それだけではない
もっともThe Vergeの主張の要は次の点にあるようです。ここでは、ジョナサンアイブの過去のインタビューを取り上げて批判しています。
「シンプルであるというのは、ごちゃごちゃしていないという意味ではなく、簡潔さから生まれた結果である。ごちゃごちゃしていないのは単にごちゃごちゃしていない製品というだけで、シンプルとはいわない。」この事からすると、単に必要最小限の要素だけで表紙を構成する事は、「ごちゃごちゃしていない」だけでシンプルだとは言えないのだ、というわけです。
シンプルの定義
この点をハッキリさせるために、シンプルさについてもう少し説明します。ジョナサンアイブのいうところの「シンプル」とは以下のようなものです。アップルの製品写真集からの引用です。
「シンプルさとは、複雑でないこととイコールでは無いのです。ただ複雑さを取り除くだけでは、複雑でないけれど意味のない製品になってしまうでしょう。私は、真にシンプルな製品は、それが何であるか、それが何ができるかを、何らかの形で圧倒的にクリアに伝えることができると思います。」
『Designed by Apple in California』アップル・2017年
この定義にあてはめてみようか
英雑誌Wallpaper*のような(イギリスの)有名な雑誌は、名前だけで「それが何であるか、それが何ができるか」、つまり「デザイン・インテリアを中心としたライフスタイル誌」であることを「圧倒的にクリアに」表現できます。どのような内容が書かれているかも概ね伝わります。今回の場合、タイトルしか書かれていないことは、単に複雑でない事以上のいみがあります。タイトルだけで内容まで含めてほぼ説明可能であるという事を考えれば、必ずしも、直接的に中に何が書いてあるのかを表紙で説明する必要はないのです。
それに、中に具体的に何が書いてあるかを表紙に書くのは、iPhoneの本体に「これはスマートフォンと言って、カメラやSNSなどのアプリを使って日常の様々な事を行えます」と文字でわざわざ書いて説明しているのと似たようなものではないでしょうか。そうすることがシンプルだと言えるでしょうか。
強弁かもね
とはいえ、正直な話、アップル的なシンプルデザインでブックデザインをする場合、電話の再発明に比べるとデザインの幅が知れています。本という形態そのものを変更できないので、表紙の表面的な要素をいじることしかできないからです。本の装丁には専門のデザイナーがいますし、雑誌の表紙だって専門家がいるでしょう。ジョナサンアイブが世界一のプロダクトデザイナーの一人だとしても、ブックデザインまで世界一とは限りませんし、ジョナサンアイブが担当するべき必然性もありません。
別の見方をすれば……
今回のブックデザインは、1種のファンサービスと見るべきです。それに、本の装丁はプロダクトデザインとはジャンルが違うので、プロダクトザインの文脈で語られたシンプルの定義があてはまらない領域と見たほうが良いかもしれません。
たんに「アップルっぽい」というだけで表紙をデザインしても許されるような気がします。