日本初iPhoneはベゼルの役割が面白かった!〜iPhone 3Gデザイン〜

iPhone 3G/Apple

こんにちは。ChoKaiSekiです。
今回はiPhone 3G(と同じデザインの3GS)のデザインを解説します。



過去記事のiPhone 3Gレビューはこちら。

背面:なぜプラスチック?

3Gの背面はプラスチック。他方、1つ前の初代iPhoneは、アルミニウム+プラスチック。部分的にプラスチックが使われているのは、アンテナの感度を高めるためです。プラスチックは電波を通しますが、アルミニウムは電波を遮ります。

初代iPhone/Apple

3Gでプラスチックに統一されたのは、初代とは異なるデザインに挑戦する意図もあったと思います。しかしそれだけではなく、内部設計の自由度を高めつつ、よりシンプルなデザインにするという意図があったと思われます。

もともと、初代iPhoneでは、各種アンテナパーツが本体下側に集められていました。このアンテナパーツが配置されている部分がプラスチックパーツで覆われていたわけです。
日経テクノロジー「初代iPhone徹底分析 ―― 外観や操作が第一,コストは後回し」図3

一方、iPhone3Gでは、Wi-Fiアンテナ等は上側に、3Gアンテナ等は下側に配置されています。
日経テクノロジー「日本初上陸の「iPhone 3G」を分解,2次電池の扱いに特徴」図1

初代iPhoneと同じ構成で外装を作ると、iPhone5のように上下にプラスチックパーツを配置することになります。しかもiPhone5のように控えめにガラスパーツが使われるのではなく、側面も含めて全てプラスチック製です。以下がそのイメージ図。
初代iPhoneと同じ構成で作ったiPhone 3Gのイメージ図
上から下に見ていくのが人間というものですから、このデザインでは上部のプラスチックパーツが目立ちます。さらには、見る人に「プラスチックの本体の一部がアルミ製になっている」という印象すら与えることになります。これではあまりにも中途半端です。

これを避ける方法として、設計を変更してアンテナを下側に集めるという方法が考えられます。しかしそうしたところで、初代iPhoneと同じデザインになるだけで、それ自体ベストとは言えません。設計の自由がこうしたあまり重要でない外観デザインのために制約されるのは良いことではありません

それならばむしろ、プラスチックだけにした方がシンプルです。複数のパーツで構成するのは、そうしなければ作れないから仕方なくそうしているというだけです。1つで済むなら1つにするほうが良いのです。

こうして、より自由な内部設計と、よりシンプルなデザインを生み出せるプラスチックが選ばれたのだと考えられます。

形状

プラスチックの本体は側面から見ると、おおよそ台形になっています。
iPhone 3G/Apple

製造上の制約

これはまず第一に製造上の制約によるものです。そもそも本体のプラスチックは射出成形で作られています。平たく言えば、型にプラスチックを流し込んで固めるわけです。そしてこの方法で成形したパーツを型から抜く際には、パーツに抜き勾配が付いていないといけません。この抜き勾配がついた形状を横からみると、台形をしています。

ただし勾配は1度から2度あれば足りるそうなので、これだけが形状の理由ではありません。
proto labs「抜き勾配が必要な理由」図2および本文の一部
以下のサイトも参考にさせていただきました。

厚みの問題

第二に、厚みの問題が挙げられます。まだまだ薄型化が進んでいない時代の端末であることに加え、プラスチックの採用で、アルミニウムの場合に比べてパーツ自体も分厚くなりがちです。こうした厚みのある物体をデザインする場合にアップルがよく使う手法があります。

それは、厚みを均一にせず、ふちに行くに従って薄くしていくデザインです。一番わかりやすいのは近年のiMacでしょう。ディスプレイ一体型のコンピュータでありながら、一番端の厚みがわずか5mmしかないという驚異の設計ですが、中央は大きく膨らんでいて、薄いのは端だけです。iPhone3Gもこれと同種のデザインと言えます。
iMac/Apple

iMac/Apple

このような薄く見せるデザインは単純に見た目がいいという事もあります。しかしそれだけではありません。iPhoneの本質は一枚の紙のようなタッチスクリーンであると以前に説明しました。厚みというのは技術的な制約から仕方なく存在しているものであり、厚みゼロの紙のような端末が作れるなら、それに越したことはないというのが、アップルの考え方です。アップルはその本質に出来るだけ近づくべく、物理的に本体を薄くするのみならず、視覚的にも薄く見えるデザインを用いていると考えられます(こうした説明以前に、デザイナーが視覚的に薄く見えるデザインを用いることはよくあることですが)。

とはいえそれにも限度があります。手に握って使うものである以上、あまりにもエッジが薄くて鋭い端末を作ることは、ユーザー体験を損なうことになります。エッジの厚みが1mmのiPhoneも作れるのかも知れませんが、それは必ずしも妥当なデザインではありません。iPhone3Gの背面形状はそうした考慮からたどり着いた形なのでしょう。

アップルが薄型化を追求するのは、それが理想だからであると同時に、実際上、紙のように薄くなることはないという現実があるからだとも言えます。単純に理想を追求しても不都合が生じないのです。本当に紙のように薄い製品が作れるようになれば、デバイスの形態も今のスマホとは異なったものにやってくるのではないでしょうか。

握りやすさ

第三の観点は、上記に関連して握りやすさの問題です。iPhone3Gの中央が膨らんだデザインは、手の形に沿う形であり、握りやすくなっています。また、握った際、ちょうど本体の一番幅が広い部分に指の先が当たるのでグリップ感が高く、握りやすい設計になっています。

そしてこのような曲線を多用した形状は、柔らかさと結びつきやすいプラスチック素材に適しており、艶やかな表面がその印象を強めています。

以上のように、iPhone3Gの背面デザインには複数の問題がからんでいます。アップル製品にたびたび見られる、複数の問題をまとめて解決するデザインの一例と言えます。

ベゼルその1:射出成形の裏技?

最後にベゼルのデザインを説明しましょう。しかしその前に、もう一度背面パーツの形状に注目してください。

本体側面のプラスチック部分をよく見ると、画面側に向かって少しすぼまった形状をしています。画像の解像度が低くて分かりにくいと思うので、補足のための図を付けておきました。図はやや誇張しています。実物や公式写真集で確認しているので、すぼまった形状をしていることは確かです。
青色で塗った部分は、本体がディスプレイ側に向かってすぼまっていることを示しています
話を戻しましょう。ここで説明したいのは、こうした形状は通常の射出成形では作れないということです。型から抜こうとするとこの部分が引っかかってしまうからです。型を分割する位置を変えればいいのかも知れませんが、それではバリができてしまいます。

そこで、型の一部が内部で移動するような機構を持った型を使うことで、型から抜く際に邪魔になる部分をどかして型から抜くことができます。こうした型の機構を内スライド構造というそうです。
iPhone3Gのパーツもおそらく内スライド構造を使って整形していると思われます(同じ年に発売されたiPod touchの製造にはこの内スライド構造が使われていたので、3Gも同様と思われます)。

さて、この方法で成形できるなら、ベゼルを構成するステンレス製のパーツもプラスチックで一体成形できたのではないかという疑問があります。

そうしなかった理由として考えられるのは、まず、内スライド方式でも技術的な限界があったから別パーツにした可能性です。

そしてもう一つは、パーツの内部を加工する際にすぼまった部品が邪魔になるから、というものです。

iPhone3Gでは、まずパーツを成形した上で、内部を機械加工で削って、内部コンポーネントを収納するためのスペースを作っています。これは、プラスチックを厚めに成形したほうがパーツの歪みが少なくてすむからだと考えられています。
プラスチックは冷えて固まるときにゆがみやすく(専門用語でヒケと言います)、なかなかこうはいかないものだからです。ゆがみを少なくする最も確実な方法は、プラスチックの厚さを一定に作る事です。(中略)アップルは、iPhone 3Gの見事につるんとした背面を作るために、まずはボディを少し厚めに一定の厚さに成形しました。それから、薄くする必要があるところだけをドリルで削って薄くしました。

引用元サイトのコメント欄では、背面パーツの内部を本当に切削加工しているのか議論になっていますが、公式写真集の解説から切削加工していることが明らかになっています。

この加工の際に、機械の入り口であるディスプレイ側の開放部がすぼまっていると機械を入れるのに邪魔になります。そのため、一部を後付けの別パーツにしたのではないかという事です。

ベゼルその2:「額縁」のメタファー

さて、こうして別パーツになってしまったステンレススチール製のベゼルパーツですが、このベゼルが非常に面白い役割を果たしています。その役割とは、ずばり「額縁」としての役割です。

このパーツは、本体とは素材が異なり、かつ鏡面仕上げされているので、背面パーツと一体感をもちつつも、それとは区別された存在になっています。このパーツがディスプレイを取り囲む形で配置されていることで、ディスプレイ、ひいてはそこに映し出されるコンテンツの存在を引き立てる、いわば「額縁」のような役割を果たしているのです。

By  Adrian Korte
さらにこれは、ユーザーにとって当時、全く新しいデバイスであったiPhoneが、何であるかということを理解させることにも役立っていたはずです。iPhone3Gは意図的にディスプレイ周りに額縁を付ける事で、iPhoneにおいてディスプレイが主役であることを表現しています。

こうして見ると、初期搭載OSの壁紙に「モナ・リザ」などの名画が含まれているのも、たんなる気まぐれではないはずです。

同時にこの鏡面仕上げのベゼルパーツが本体デザインに美しさを与えている点も見逃せません。
ベゼルの鏡面仕上げは表面処理の方法としてはかなり装飾的な部類に入ると思われますが、額縁というのは歴史的に様々な装飾が施されてきたものです。このベゼルも額縁の系譜に属すると考えれば、装飾的であることの合理性を肯定できます。

とはいえ、表面を鏡面仕上げする加工はアップル製品に広く見られるものであり、鏡面仕上げを選ぶ一般的な理由が別にあるのかもしれません。

さらに、この鏡面仕上げのベゼル(とスイッチ類)が高級感を演出しており、ユーザーの所有欲を満たすのに一役買っていることは言うまでもありません(過去記事参照。ただし背面がプラスチックなので、所有欲を満たすためのデザインという性質は限定的かなとは思います)。

というわけで、iPhone 3Gのベゼルは額縁として機能していたのでした。

まとめ


  1. プラスチックボディは内部設計の自由度を高めつつ、初代よりシンプルなデザインを実現した
  2. ベゼルパーツは額縁のメタファー等として機能していた

あとがき

最後まで読んでいただいてありがとうございます。次回もよろしくお願いします。


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