iPhone Xデザインに見るアップルの執念深さは尋常ではなかった



後追いの狭額縁スマホでしょと言われたりするiPhone Xのデザインを解説します。これには単なる流行とかでは説明できない執念深さがありました。





1 ベゼルレスディスプレイについて

まず、iPhoneは一枚の紙のような(厳密には厚みゼロの)長方形のタッチスクリーンを基本に、実際上の制約から、そこに厚みを持たせた「タッチスクリーン」と「その厚み」からなる直方体を基本形としてデザインされています。

そしてiPhone6以降は、この基本形が持っている鋭く尖った角を全て同一に「丸める」ことで持ちやすく且つ薄く見えるiPhoneとなりました(過去記事参照)。

この基本形を元に考えると、iPhone X以前の従来型iPhoneには余分な要素が存在していました。

それは、上下に配置された大きなベゼルとその厚み部分です。ホームボタンの配置にも利用されていたこのベゼルですが、この部分にタッチセンサーは存在せず、タッチスクリーンの一部ではないと考える方が自然です。そうだとすると、このベゼル(厚みを含む)部分は、「タッチスクリーン」と「その厚み」に含まれない以上、実は不要な要素だったと言えます。
iPhone6/Apple
iPhone Xはこの余計なベゼルを排除したことで、「タッチスクリーン」と「その厚み」だけからなる、より純粋なiPhoneとなりました
まあ実際のところベゼルは残っているのですが、ここまでくれば十分「ベゼルレス」と言っていいでしょう。

この話、ハードウェアだけの問題に見えますが、もちろん適切なソフトウェアの存在が前提です。従来型iPhoneにしても、ホームボタンという操作の仕組みを前提にすれば上下ベゼルの存在は許容できます(というか近年まで技術的にベゼルレスが実現できなった以上、上下ベゼルとホームボタンの組み合わせは完璧でした)。ベゼルレスでもiPhone Xのような操作UIがないのであれば、上下ベゼルとホームボタンの組み合わせの方が優秀と言えます。

2 「継ぎ目のない一つのフォルム」

(1)
iPhone Xの筐体デザインは「継ぎ目のない一つのフォルム」(公式サイトより)を実現した点で、これまでのiPhoneとは異なるとされています。

さらにこの点について、ジョナサン・アイブのインタビュー記事から引用します。
「これ以前は、エンクロージャー(筐体)とディスプレイという、個別のコンポーネントが存在している感覚がありました。私たちが常に目指していたのは、その異なる部品と考えていたものを統合させるという本質に取り組むことです。《iPhone X》をその視点で見ると、長い年月をかけ、とうとう私たちはそれを達成することができたのだと思います。」
ジョナサン・アイブに聞く《iPhone X》のデザイン哲学とは? | ページ 2 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

これは、従来のiPhoneは、「ディスプレイ」と、ディスプレイとは区別された「厚みのある筐体」から構成されていたとして、iPhone Xでこれを克服したとする発言です。iPhoneの本質は「ディスプレイ」と「その厚み」で構成されているので、従来のiPhoneはこの本質から外れていたのだと言えます。

しかし、この発言だけでは、具体的にiPhone Xのどの部分を指しているのかまではよく分かりません。

そこで、従来のiPhoneとの違いから、具体的に意味するところを考えてみたいと思います。

iPhone Xとそれ以前、特に6以降のiPhoneの違いとして、筐体を構成する「素材」と、その「表面処理」の違いが挙げられます。上記に引用した発言の意味するところは、iPhone Xの筐体の「素材」と「表面処理」によって「継ぎ目のない一つのフォルム」が実現されたという事だと思われます。

(2)
まずは表面処理について見てみましょう。
従来の梨地のアルミニウムとガラスの組み合わせでは、両者の素材の「表面処理」が異なるため、一体感に欠ける面があったということができます。

ではiPhone Xの「表面処理」はどうでしょうか。
まず、鏡面加工された筐体と、ガラスのベゼルの組み合わせは、表面処理が共通しており、触覚的にかなり一体感があります。

そして視覚的にも一体感があります。というのも、どちらの素材も表面が磨かれており、光を反射して表面に細長い光の筋が入ります。加えて、筐体に写り込んだ像も引き伸ばされて細長い線のようになります。この光の筋と写り込みの細い線は、筐体とベゼルの接合部分のラインと平行に走るため、これらが区別しにくくなり、結果的に接合部のラインが見えにくくなり、一つのパーツのように見えるのです。

本体側面とベゼルの接合部が分かりにくい
その2

(3)
素材はどうでしょうか。

そもそも、こうした継ぎ目のないデザインは、iPhone7のジェットブラックで一応達成していたと言えます。しかし、ジェットブラック的なデザインは黒以外のボディカラー、たとえばホワイトでは難しいかもしれません。何より、個人的な体験ですが、鏡面加工されたアルミニウムの表面は傷がつきやすかったのです。Apple Watchの製造で培ったステンレススチールの加工技術を元に、ステンレス素材が投入されたiPhone Xで、ようやく「継ぎ目のない一つのフォルム」が達成されたと言えます。

これらが「継ぎ目のない一つのフォルム」が意味するところだと思われます。

とはいえ、実際には別個のパーツですし、視覚的にも全く一体とは言えないので、合わせ技一本という感じがありますね。筐体までガラスで一体形成されているiPhoneか、現実的なところではセラミック素材のiPhoneあたりで純粋なiPhoneが実現されるのではないでしょうか(技術革新で変わりうるのでキリがないですが)。

 あとがき

今回は背面のガラスパネルについては触れませんでした。

無線充電を実現する代償としてパーツ数を増やす事がどう正当化されているのか、ブラックやホワイトではなく、グレーやオフホワイトを採用した意味は何なのか、といった疑問点が解消できなかったからです。あるいは、iPhone XのデザインiPhone 8とのデザインの関係はどうなっているのかといった疑問も残っています。これらは今後の課題とさせてください。

と言うことで、最後まで読んでいただいてありがとうございます。コメント等お待ちしております。


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