iPhone 11のカメラユニットが「これでいい」ワケ

引用元:アップル

今回はiPhone 11シリーズのカメラユニットのデザインを解説します。




リーク段階では,カメラユニットのデザインは,レンズ周辺が黒一色のものと,本体カラーに合わせたものの2種類が出回っていました。アップルのデザインチームが2パターン検討していたのかは定かではありませんが,どちらも十分ありうるデザインです。ただ,じっくりと考えていくと,実際のiPhone 11シリーズのデザインの方が優れていたという印象です。

理由の要点は次の通り。

  1. 黒一色は黒の面積が大きくなりすぎて不自然
  2. 黒一色でもレンズが飛び出ていて不自然
  3. 11と11 Proが区別できない
  4. 成熟したXシリーズに遊び心を持たせている

以下で詳しく見ていきましょう。

黒の面積が大きくなりすぎて不自然


iPhone7及びXシリーズはカメラユニットのレンズ周辺を黒くすることで、カメラユニットの外観をシンプルにまとめていました。11では、レンズ自体が大きくなり,レンズの数も増えています。これを黒く塗りつぶすと、黒い部分が目立ちすぎてしまうという問題が生じます。

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=rie69P0W668

レンズが目立たないようにするためのデザインそれ自体が目立ってしまう、という矛盾を抱えていると言えます。このことからすると,黒一色は正解とは言いにくいのではないかと思います。


黒一色でもレンズが飛び出ていて不自然


iPhone 11では,レンズ周囲のパーツとレンズ自体が二段階で飛び出ています。これは,出っ張り過ぎているレンズの印象を緩和する意図によるものと思われます。そのおかげか,実物を見ると,あまり出っ張っているように見えません。

引用元:アップル

一方,この形状では,黒一色にしても,レンズが物理的に飛び出ていることは隠せません。レンズ自体の出っ張りがなかったiPhone X世代ほどにはカメラ周辺が出っ張っているという印象は緩和できません。
逆に,レンズ周辺のパーツをレンズ自体と同じ高さにすると,レンズだけが出っ張っていると言う違和感は回避できますが,レンズが出っ張っているという印象は強くなってしまう。

むしろ黒一色にしない方が自然と言えます。


 11と11 Proが区別できない

引用元:アップル
iPhoneXSのレンズ周辺

iPhoneは、メジャーアップデートの度に背面やレンズ周辺のデザインを変えてきました。
無印iPhone 11はダブルレンズですが,レンズ周辺は正方形に近いシルエットです。これは同じくダブルレンズのiPhone X世代との区別のためと思われます。
しかし元々,iPhone 11のレンズ周辺デザインは,レンズを三つ配置したiPhone 11 Proのデザインに合わせたものであり,この2つ区別をつける必要もあります。

黒一色にするとこの区別がつけづらくなります。本体カラーに合わせれば,レンズの個数がハッキリし、11と11 Proの区別は明確になります。


成熟したXシリーズに遊び心を持たせた

引用元:アップル

iPhone7でiPhoneのメジャーアップデートが三年周期になったと言われていますが,iPhone 11はその3年目。Sシリーズのように外観を一切変えないわけではないものの,基本的なデザインは変わりません。細かい違いや仕上げの違いで,1年目2年目とは違った印象になるように工夫されています。iPhone7の時は,カメラの突起部分も含めて1個のアルミニウム素材から削り出した筐体と,ジェットブラックという印象的な仕上げが目玉でした。

今回は,

  1. 3つのレンズが三角形に配置されている点
  2. レンズの周囲にTouch ID対応ホームボタンのような金属のリングが付いた点
  3. レンズ周辺の突起部分を1枚のガラスから削り出した点

などが特徴です。

1.については,レンズを三角形に配置した意図は不明ですが,しっかり話題になっています。
円形か角丸の四角形ばっかりで三角形はあまり使わないアップルには珍しいデザインですが,円を三角形に並べた形状は,アップル製品以外では様々なデザインに取り入れられており,ボトムズだとか,ガスマスクだとか,色々言われていますが,誰でも一つぐらい思い当たるものがあるという,ある種普遍的なデザインといえます。

2.と3.はデザイン的な必然性があるというよりは3年目に至って成熟したデザインに遊び心を持たせるものであり,マーケティングの観点からは,ユーザーを飽きさせない工夫をしているということになります。
11と11 Proで背面とレンズ周辺の仕上げの違い(マットか艶があるか)が対になっている点も遊び心があります。


まとめ

以上のように,仮にレンズ周辺を黒一色にすると,黒い部分が必要以上に目立ってしまう上,レンズ自体もしくはレンズ周辺が出っ張っているという印象が強まる一方で,11と11 Proのデザインの区別がつきにくくなり,Xシリーズからの外観上の印象の変化に乏しく面白みのないデザインになってしまいます。

逆に,レンズ周辺を本体色に合わせた(製品版のような)デザインにすれば,レンズ周辺を目立たせず,かつ,レンズ周辺が出っ張っているという印象を緩和した上で,11と11 Proのデザインの区別もつけながら,デザイン的にも遊び心のあるデザインにすることができるという利点があります。
三角形の配置も,印象的でありながら普遍性を兼ね備えたデザインであり,良いデザインと言えます。


追記:2020年3月発表のiPad Proのカメラユニットはブラックに近い色で塗りつぶされたデザインです。このデザインとiPhone 11シリーズのデザインから推測するに,アップルは,背面に占めるカメラユニットの面積の割合を考慮して,レンズ周辺のカラーリングを決めているようです。
したがって,本記事で述べた理由1の「黒一色は黒の面積が大きくなりすぎて不自然」というのが大きな理由になっていたようです。




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