プラスチックの裏に隠された本質〜iPhone 5cデザイン〜


By Poster Boy
ピンクパンサーとクッキーモンスターにされてしまったiPhone 5cのポスター。一瞬公式かと思う出来。
iPhone 5cは一見、プラスチックボディにiPhone 5を詰めただけのスマホに見えます。しかし、iPhone 5との関係でそのデザインを観察していくと、そんな安易なデザインではないことが分かります。


紹介が遅れました。ChoKaiSekiです。というわけで早速解説していきます。

言ってしまえば5cの本質は「コントラスト」です。iPhone 5にあった「所有欲を満たすための製品」という性質は、5cにはありません(もちろん全くないわけではなく、アップル製品一般に見られる程度のものはあります。5のデザインについては過去記事参照)。

その代わり、これでもかというほど「コントラスト」が強調されています。「コントラスト」というのはiPhone 5のキーワードの1つです。iPhone 5自体で完結していた「コントラスト」というキーワードを、今度は製品間で意識したのが5cです。

つまるところ、iPhone5cは、iPhone5とあえて対照的にデザインされているのです。5cの本質が「コントラスト」だといったのはこれが理由です。iPhone 5c単体のコンセプトについては「カラフル」であり、詳しくは以下で説明しますが、それは表面的なものです。本質はこの「コントラスト」にあります。

そこで本記事では、5cのデザインををコントラストの観点から説明してみたいと思います。

まず、iPhone5と5cとの関係では、以下の4つのコントラストがあります。
  • コンセプトのコントラスト
  • 色のコントラスト
  • 形状のコントラスト
  • 素材のコントラスト

さらに、5c自体のデザインにおいても、以下の3つのコントラストがあります。
  • ベゼルと本体のカラーコントラスト
  • 本体とケースの色のカラーコントラスト
  • 本体とケースの素材のコントラスト

コンセプト・色のコントラスト

By Peter Kaminski

色とコンセプトはまとめて説明したほうが分かりやすいので、まとめて説明します。

5cの(表面的な)コンセプトは「カラフル」です。5cは5色展開という当時のiPhoneでは考えられないほど“カラフル”なカラー展開でした。製品名の「iPhone 5c」についても、5色展開であることから「5 color」を意味し、「c」単体では「colorful」を意味すると推測できます。ニュースリリースのタイトルでも「これまで最もカラフルな」と書かれています。CMにおいても明らかに「色」が強調されていました。

By Apple

iPhone 5に用いられている白や黒といった色が「無機質」「落ち着き」を連想させるのと対照的に、5cのカラフルな色は「有機的」「楽しさ」を連想させます(もちろん一例ですが)。鮮やかな色合いは、そうでない色合いの物との関係において、自らを引き立て、ユーザーにとって魅力的な印象を与えます。5cはモノクロの5との関係でその印象を際立たせています。

形状のコントラスト



5cは、全体的には丸みを帯びた印象になるようにデザインされています。エッジの効いたデザインのiPhone 5とは対照的です。5cのコンセプトがもつ「有機的」な印象からすると当然の選択でしょう。この丸みがはっきりと現れているのは、背面のエッジ処理です。手に馴染むように滑らかに丸められています。

表面(ベゼル側)のエッジについては、当時2.5Dガラスが存在しなかったので、目立たない程度に角を丸めているだけの簡素なデザインです。これをiPhone 5の鏡面仕上げのエッジとの関係で見ると、鏡面仕上げどころか、そもそも斜めに切り落としたエッジが存在しません。意識して見ない限り、エッジがどうなっているのか印象に残らないぐらい特徴のない処理をしています。まるで5からエッジそのものを取ってのっぺらぼうにしたかのようなデザインです。5と5cを比べた時にコンセプトの違いが際立つようになっています。

ただ、この点については2.5Dガラスを使って背面同様に丸みを帯びた形状にしたほうがよりコンセプトに沿う形になったのではないかと思います。

2.5Dガラスを使ったベゼルデザインについてはiPhone 6以降の端末を見ていたほうが分かりやすいでしょう。それ以外で挙げるなら、以下のiDROPNEWSによる廉価版iPhone Xのコンセプト画像が近いです(Xの廉価版のコンセプトとして賛同するものではありません)。

ただ、ベゼルを構成するガラスの厚みは増やしたほうがいいと思います(狭額縁をやめるのではなく、厚みに占めるガラスパーツの割合を増やすという意味です。AppleWatchを見ると分かりやすいです。AppleWatchは側面から見ると、iPhoneよりもガラス部分に厚みがあります)。そうしないと、狭額縁のベゼルでは、ベゼルの黒が少なく、後述するベゼルと本体の色のコントラストが殆どなくなってしまいます。
By iDROPNEWS


素材のコントラスト

一般に、プラスチックよりも金属の方が「高級感がある」と考えられています。金属素材による高級感は「所有欲を満たすためのデザイン」に関係します。5cは「所有欲を満たすためのデザイン」というコンセプトではないので、アルミニウムの代わりにポリカーボネート(プラスチック)を用いることで、そうした特性を排しています。

プラスチックは柔らかい印象を見る人に与えるので、コンセプトが持つ有機的な印象とマッチしています。

By Apple

ベゼルと本体のカラーコントラスト

ベゼルはホワイトではなくブラックを採用したビビッドなカラーリングで、互いに色を引き立てあう関係を生み出しています。

本体とケースの色のコントラスト

By Apple

また、5cには純正のケースが存在します。このケースの背面にはドット状の切り抜きが並んでおり、この切り抜きを通して本体カラーが覗くようになっています。
ケースは本体カラーと同じカラー+ブラックが用意されており、本体とケースで違う色を選ぶ事で、色のコントラストを生み出す事ができます。

また、店頭では5色並んでいて「カラフル」でも、ユーザーが実際に買うiPhone 5cは1つであり、単体では決して「カラフル」ではないという問題に応えるものでもあります。ユーザーはケースを買って組み合わせることで単体でも「カラフル」さを楽しむことができます。付ける事に意味のあるケースであり、高く評価できます。

本体とケースの素材のコントラスト


By Apple
さらに、本体の表面は磨き上げられてツヤがありますが、ケースはシリコン素材でマットな仕上げになっています。この素材の違いが、光を反射したときにコントラストを生むようになっています。この点は公式の製品紹介動画でも説明されていました。

下に引用したのは、公式の解説。
Appleは、まったく新しいiPhone 5cのデザインをひきたて、光沢のあるハードコート仕上げにあえて対照的になるように、マイクロファイバーで裏打ちした柔らかでマットなケースを作りました。この滑らかなシリコンケースには独特の円形のパターンがあり、そこから鮮やかなカラーがのぞき見えます。iPhone 5cの5つのカラーと6つのカラーのケースから自由に選んで、色を変えたり合わせたりして、何十通りもの組み合わせを楽しむことができます。

不遇なC

以上のように、とてもよくできたデザインなのですが、当時を振り返ってみると売り方には問題がありました。

まず価格を一段下げたことです。同じ商品なら高い方が価値があると人は考えます。逆に安いと価値が低いと考えるのです。また、内部のチップが一年前のものと同じだったために、型落ちと見られてしまいました(まあその通りなのですが)。これがプラスチックの安っぽいというイメージを引き出してしまいました。これでは「Cheap」の「C」です

アップルは反省したのか、iPhone Xと8では、8を下げるのではなく、Xを割高にする事で、8の廉価版というイメージを緩和させています(それが良いかはさておいて)。また、チップもXと同等なので、型落ちと思われる心配もありません。

売れ行きにおいてもiPhone5とiPhone5cは対照的だったという皮肉の効いたオチとなってしまいましたね。

あとがき

古いiPhoneを日常で使ってみたいんですが、LINEのこととか考えると、気軽に機種を変えられないのが残念です。やはり眺めるだけなのでしょうか……

というわけで最後まで読んでいただいてありがとうございます。コメント等お待ちしております!


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