iPhone5のデザインの緻密さは神業だ!

By Apple
こんにちは。ChoKaiSekiです。
iPhone5以来、3世代5年以上にわたって生き続けるそのデザインの秘密を解説します。

デザインがリークされた当時はわりと酷評されたりもしていましたが、近年ではむしろ、iPhone4と並んで「かっこいい」iPhoneとして認識されている気がします。



iPhone5を理解するためのキーワード

iPhone 5の外観を説明するのに必要な2つのキーワードがあります。ここではその1つを説明します。

所有欲を満たすためのデザイン

唐突な話ですが、人は物を握ると「自分はこれを所有している」という感覚を抱きます。その感覚が特に強くなるのが、握った時に手の中にすっぽり収まるサイズの物です。iPhone 5はまさに手の中にすっぽり収まるサイズです。この大きさの物をデザインするに当たっては、このような所有感が生じることを考慮して、持ち主の所有欲を満たすようなデザインであることが求められます。ですからiPhone5も例に漏れず、「所有欲を満たすための製品」としての側面を持っています。キーワードその1は「所有欲を満たすための製品」です
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一方、iPhone 6以降は本体が大型化して手の中に収まらなくなりました。この大きさになると人は所有感をさほど強く感じません。ゆえに、人の所有欲を満たすためのデザインはほぼ不要になっています。

余談

余談ですが、このような特質を考えると、製品紹介で加工精度の高さがアピールされたわけも見えてきます。職人の手作り、精密な加工、複雑な工程といったアピールは、高級腕時計の宣伝などにおいて見られます。そういった背景事情が人々の所有欲をかき立て、所有した時の満足感を高めるからです。所有欲を満たすための製品であるiPhone 5がその類の宣伝をすることは当然の事です。
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それでは、このキーワードを用いてデザインを見ていきましょう。

エッジの処理

基本的な考え方はiPhone 6の記事で説明したものと変わりません。つまり、スマホの本質である、一枚の紙のようなタッチスクリーンに厚みを持たせた、かまぼこ板のような形を基本形としています。その上でエッジを処理するデザインを考えています。iPhone6では、角を丸めるという処理が選択されました。

iPhone5は、正面からみた時の四隅はRを取って角丸にしてありますが、それ以外はエッジを全て斜めに切り落としてあります。この斜めに切り落としたエッジを、以下では単に「エッジ」と呼びます。

角を切り落として手に馴染ませる処理は、角丸と並ぶシンプルなエッジの処理ではあります。ただし、角丸とエッジが並存しているというのは一貫性に欠けるのではないか、という疑問があります。

しかし、そうではありません。ここで思い出して欲しいのがキーワードその1「所有欲を満たすための製品」です。iPhone 5には、人の所有欲を満たすようなデザインが求められています。この観点からエッジを考える必要があります。

iPhone5のエッジは鏡面仕上げされています。これによってエッジが光を反射し、iPhone本体に「宝石」のようなラグジュアリー感を与えています。さらにマット仕上げの側面と、きらめくエッジのコントラストがiPhone5のデザインに美しさを与えています。このデザインが人々の所有欲をかき立て、所有した時の満足感を高めているのです。

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iPhone 6のようなエッジを丸める処理ではここまでの効果は期待できません。エッジを斜めにし切り落として鏡面仕上げしたからこそ実現したのです。これだけの効果を一見すると当たり前のようなデザインで実現している点が凄いのです。iPhone5のエッジ処理を様々なメーカーが真似しました。しかしデザイン上の意味をきちんと考えた上で採用したメーカーが一体どれほどいたでしょうか。

ちなみに、「宝石」という表現は、アップルのニュースリリースで用いられている公式の表現です。
驚くほどたくさんのイノベーションと高度なテクノロジーを、薄くて軽い、宝石のようなデバイスに詰め込みました
プレスリリース「Apple、iPhone 5を発表」

残された謎……背面のツートン

以上でおおよその説明は終わりましたが、まだ背面デザインの説明が残っています。

iPhone5の背面は、アルミのボディーの上下にガラス板をはめ込んだ形をしています。このガラスパネルの位置や大きさは、本体側面のアンテナラインの位置で説明できます。側面にあるアンテナラインを背面まで伸ばしていくと、ちょうどガラスと同じ線上にあります。位置が揃うように設計されているわけです。したがって、iPhone5の具体的な形状は、アンテナラインの位置などの技術的な問題と絡んでいます。
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画面左端に見える、本体側面のアンテナラインに注目。
アンテナラインとガラスパネルの底辺が同じ線上に並ぶように設計されています

さらにiPhone 4→7の背面に、背面がガラスからアルミニウムへと移り変わる過程を見ることができます。iPhone 5の背面は、iPhoneが完全なユニボディへ向けて進む過程の中で生まれたデザインだといえます。このような形状になったのは、この当時まだ、iPhone6のような細いアンテナラインだけでアンテナ機能を維持する技術がなかったからだと思われます。これはiPhone4→5→6→7と年を追うごとに電波の通り道を確保するための部品が小さくなっていることから推認できます。
全面ガラス→一部ガラス→Dライン→1本のライン

上記の事情からすると、できるだけユニボディに近いデザインにしようという試みと、技術上必要なアンテナラインを確保する必要のせめぎあいの中で、iPhone5の背面デザインが生まれたのだろうと推測できます。

しかし、これだけでは理由として弱いです。ユニボディを目指すと言っても、ガラス板のはまった中途半端な形状にするぐらいなら、iPhone4のように全体をガラスにしたほうが良いとも思えるからです。

アップルがユニボディを良しとしていることは、過去のインタビューから明らかなのですが、これもいずれ記事にしたいと思います。

しかしこれも間違いです。ここで思い出して欲しいのが、「コントラスト」です。これは、エッジの説明をした時に出てきた言葉です。マットな本体側面と、きらめくエッジのコントラストがiPhone5のデザインに美しさを与えているという話です。この「コントラスト」がキーワードその2です。
By Sean MacEntee

背面のツートンもこれで説明できます。まず、ガラスとアルミという素材のコントラスト。そして、ガラスとアルミの色のコントラストです。こういったコントラストもまた、キーワードその1「所有欲を満たすための製品」の実現に一役買っています。アップルがコントラストを意識していることは、iPhone5のカラーが「ブラック&スレート」といった2色で表現されている点からも裏づけられます。

このメリットがあるからこそ、全面ガラスではなく、ガラスとアルミのツートンにしたのです。

まとめ


  • キーワードその1:「所有欲を満たすための製品」
  • キーワードその2:「コントラスト」
  • 鏡面加工のエッジとアルミボディのコントラストがユーザーの所有欲を満たす
  • 背面デザインは、できるだけユニボディに近づける試みと、技術上必要なアンテナラインを確保する必要のせめぎあいの中で生まれた
  • ガラスとアルミのコントラストがユーザーの所有欲を満たす


iPhone 5のデザインの優秀さは、いまでも同じデザインがiPhone SEのデザインとして現役で使用されていることからしても明らかです。

残念ながらiPhone SEではエッジが鏡面仕上げではなくなりました。これはコストカットのためと言えそうですが、SEが主力製品ではないこととも関係していると思われます。格安ラインナップという性質と、「所有欲を満たすための製品」という性質は併存しにくく、後者が一歩後退するデザインが選択されたのだと思われます。

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